「いのちのためのいのち」
作:遠藤稔/絵:小島さやか
あるところに双子の兄弟がいました。双子の顔はそっくりでした。お兄ちゃんの名前はセバスチャン。働き者で優しくて村のみんなから愛されていました。村の人たちは言いました。セバスチャンの仕事は気持ちがいいよ。女の子たちは言いました。「私結婚するならセバスチャンみたいな人がいいわ」そっくりな弟の名前はルイス。顔はそっくりだけれど、怠け者で、嘘つきで、お酒ばっかり飲んでいました。おまけに暴力をふるう人でした。村の人たちは言いました。「おい、また飲んでるぞ」「アッこっち見てる、関わるなって」「なんで兄弟なのにあんなに違うかね」
そんな弟ルイスのことをお兄ちゃんのセバスチャンはとっても愛していました。ルイスが失敗するたびにお兄ちゃんは謝っていました。「ちょっとあんた、またこれ、あいつ割って行ったんだけど、どうしてくれるのさ」「すみません、すぐ弁償します。」「あんたからもいってやりなさいよ、酒ばっかり飲んで」「それからこの間の代金まだ払ってないんですけど」「すみません。すぐ弁償します。ごめんなさい。」でも、だれが何と言おうと、ルイスはセバスチャンにとってかけがえのない弟でした。そんな弟ルイスはいつも酔っぱらって帰って来ました。「おい、またルイス、飲みすぎだぞ、おい。」「うるせえんだよ!お前におれの気持ちがわかってたまるかっていうの、ばーか。」それでも大事な、大事な弟でした。
セバスチャンはいつも夕食を作って弟を待っていました。でもその日は何か様子が変でした。「どうしよう、兄ちゃん、助けて!」「どうしたルイス?」「どうしよう、やるつもりはなかったんだよ」見ると血だらけの服を着て立っています。「どうした、ルイス」「どうしよう、刺すつもりはなかったんだよ」見ると手には、真っ赤に血に染まったナイフを持っています。セバスチャンは言いました。「いいか、よく聞けよ。その服をすぐに脱ぐんだ。山に逃げろ。帰ってくるなよ。山に逃げるんだ。」こうしてルイスは山に逃げました。
何日過ぎたかわかりません。いや、何か月隠れたかわかりません。思い出すのはあの日のこと、そして後悔する気持ちばかりです。「なんてことしちゃったんだろう」「どうしよう…」そして思い出すのはお兄ちゃんのセバスチャンのことばかりです。「会いたい」「会いたい」もう何年経ったかわかりません。ルイスの人相は変わっていました。空を見ながら、ルイスは彼のことを思い出しました。「あいつだけだった。どんな時もあいつだけだった。あいつだけが味方してくれた。あいつだけはかばってくれた。」「会いたい」「会いたい」
何年もたって、ルイスは思い切って村に帰ってみることにしました。久しぶりに村の酒場のドアを開けてみました。勇気を出して、隣の客に声をかけました。「あの、すみません」「昔なんですけど、このあたりで、殺人事件がありませんでしたっけ。」「あ~、あったね。あれひどかったよ。人が刺されてさ、血だらけになって倒れていたのを思い出すよ。」「それで犯人ってどうなったか知ってますか?」「お前知らないの?現場にさ、真っ赤な血だらけの服着てさ、ナイフ持って突っ立ってたよ。」「すぐ逮捕。」「それでどうなりました?」「おまえなんも知らないんだね」「死刑…、おわったよ」「死刑?」
ルイスは店を出ました。「僕が殺したんだ」「お兄ちゃんまで殺したんだ」ルイスは耐えられなくなって、村長さんの家に行きました。「村長さん、僕です。僕は犯人のルイスです。村長さん。死刑になったのは兄のセバスチャンです。村長さん。」「村長は何も言ってくれません。」しばらくして村長は言いました。「いいか、さばきは終わったんじゃよ。犯人は捕まったし、刑は執行されたんじゃ。帰っておくれ。帰っておくれ。」「あんた、犯人の家族なんじゃろ。そこに犯人のカバンがあるから、持って帰ってくれ。」「そんな…、村長さん。」ルイスは、帰ってカバンの中を見ました。見ると中に、一通の手紙がありました。「愛する、愛するルイスへ。僕は今日、君の真っ赤なシャツを着て死刑台に行く。この手紙を読んだら、君は僕の真っ白いシャツを着てほしい。愛してる。セバスチャンより」何回も読みました。涙で文字が見えなくなるまで読みました。朝まで考えました。ルイスは決めました。セバスチャンの真っ白いシャツを着ることを。もうあのすさんだ生活に戻りたいとは思いませんでした。ルイスの心には、兄への感謝がありました。大切な「いのちのためのいのち」、おしまいです。
私たちは、ルイスのように殺人なんてしてないよね。でも聖書には、人を憎むならそれは人殺しだよって書いてあるんだよ。みんなだって、弟や妹に意地悪したり、お母さんに注意されたとき、やったのに「やってない!」って言ったりするよね。聖書には人はみんな罪があるって書いてあるの。人殺しをしたから罪人っていうんじゃなく、盗みをしたから罪人っていうんじゃなく、人はみんな罪があるから、罪の根っこを持ってるから、うそをついたり、いじわるなこと考えたりするんだって。
そして聖書には「罪からくる報酬は死です」って書いてあって、本当は、人間はみ~んな死刑にならなきゃいけないって書いてあるの。
でもね、イエスさまが、私たちが死刑にならなくてもいいように代わりに死刑になってくれたんだよ。セバスチャンが、ルイスの血に染まったシャツを着て死刑になったように、イエスさまは、私たちの汚れた心を一身に背負って十字架にかかって代わりに死刑になってくれたんだよ。村長さんが言ったよね。「もう終わったんだ」って。私たちへの罰ももう終わったんだよ。何にも頼んでないのにね。
どうしてだと思う?どうしてセバスチャンはルイスの代わりに死刑になってくれたの?愛しているからだよね。イエスさまは私たち一人一人のことを愛しているから、代わりに死刑になってくれたんだよ。
そしてイエスさまは死んで、でも3日目によみがえって今も生きている。そして私たちといっしょに生きているんだよ。私たちの中の古いルイスは死にました。私たちもイエスさまがくれた真っ白いシャツを着て、イエスさまといっしょに、生きていきましょう。
「天のお父さま、イエスさまは、私たちのために、十字架で死刑になってくれました。それは私たちの罪のせいでした。すべては終わりました。これからは心にイエスさまがくれたまっしろのシャツを着て、光の中を生きていくことができますようにイエスさまのお名前によってお祈りします。アーメン」
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